やぎさわ便り八木沢里志 公式サイト

english
english

うちの家に前の家には立派な百日紅(さるすべり)の木が植っていて、この時期になると毎年、白い花が咲く。夏の間、ずっと咲いていて、最近ちょっとずつ花びらが落ちるようになってきた。

去年までよくその落ちた白い花弁をその家のおじいさんが朝から箒で掃除していた。ジウの散歩の時間とかぶるので、ほとんど毎日顔を合わせていた。

おじいさんは少し痴呆がはじまっていたらしく、顔を合わせるたびにこちらのことは忘れているようだった。それで「猫も散歩すんのかい?」と聞いてくる。毎回。こちらも「そうですね、猫だけどこの子は散歩するんですよ」と答える。するとおじいさんは、はははと笑う。結構気難しそうなおじいさんなのだけど、笑うとやさしい表情になるので、毎回そのおじいさんの笑顔が見たくて、何度でも答えていた。

今年はそのおじいさんの姿が見えない。なので、百日紅の落ちた花もそのまま、道路にたまっている。少し前まではその姿を庭先で見かけていたのだけど。お年だったし、ホームにでも入ったのかもしれない。なんにせよ、お元気にしていればいいなあと思うのだけど。

ずっと当たり前で変わらないことなんてないのだけどね。それでも、やっぱりおじいさんのあの笑顔がまた見たいなあ、とジウと散歩しているときにふと思ったりする。

s